2008年12月14日日曜日

Dracon's Law:『科学の人格』

2007年10月14日


『科学の人格』
書き始め2003年12月7日
最終更新日2004年9月19日


<<高校時代の後輩に聞いた話だが、医学部の教授の中には、人間の体をいじるのに好奇心が強く、 ともすると人体実験をしたいと思っているような人間がいるらしい。そのような人間に嫌悪感を覚える。 人の幸せを考えずに、自分の勝手な好奇心から、「人類の発達とさらなる繁栄のために」 などと奇麗事のスローガンだけを並べて、命を粗末にするような科学を批判したい。>>
カル=キュローによるバイオテクニカの創設と、生産される命の悲劇。ホルムズ、キールズの誕生と バイオテクニカ研究所の破壊まで。
カル=キュローは、絶対安定的な統一された画一的な秩序ある社会を実現するために、 ある目的を達成することのみに喜びを感じ、ただひたすらその目的を遂行するためだけに 生きるような”目的用人造人間”を開発することを望んだ。彼がそのために設立した研究者 の一段はバイオテクニカと呼ばれていた。そのような研究者たちもまた、科学薬品と カル=キュローの洗脳により、それを実現することのみを喜びと感じさされるようにされた 犠牲者であった。彼らは喜んで凶気の研究を行っていた。すなわち、自分の精子から生まれた 赤ん坊に対する人体実験である。彼らは赤ん坊を何人も「生産」し、驚異的な速さで成長させ、 検査を行っていた。そして、目的を達成できなかった赤ん坊を「処理」=殺害していた。 彼らは、赤ん坊に番号をつけて管理していた。
バイオテクニカの研究者の一人、ノア=ルシーダは、今日も多くの赤ん坊の能力をチェックしていた。 赤ん坊が機械によって捻じ曲げられ、悲鳴をあげる。間接の柔軟性の試験がなされているのだ。 赤ん坊の絶叫とともに、赤ん坊の体が折れて、力なく横たわる。「こいつも不良品。こいつもか。 また、処理しなくちゃな。」ノア=ルシーダの目に一人の赤ん坊が目にとまった。 「ホルムズ号か・・何をしているんだ?」ノア=ルシーダが近づくと、 その赤ん坊はノア=ルシーダに手を伸ばし、にっこりと微笑んだ。 「おかしいな。微笑むはずはないのだが・・不良品なんだろうか?」 赤ん坊達は、親に愛情を抱かせないように、いつも憎憎しい顔をしているように化学薬品 を飲まされていたのだ。しかし、ホルムズは彼らの言う「不良品」だったようだ。 ホルムズは無邪気に微笑む。「パ・・パ・・」ノア=ルシーダは脳に電気が走ったように感じた。 「な・・・なんだ、この感じは・・く・・苦しい・・。」カル=キュローの洗脳が、 ノア=ルシーダの頭によぎった愛情をかき消そうとしてノア=ルシーダに苦痛を与える。 ノア=ルシーダはその晩、悪夢にうなされる。ホルムズが不良品であることを知った同僚が ホルムズに注射を打って処理しようとするのだ。ノア=ルシーダは絶叫して飛び起きた。 「やめろ!やめてくれ!」体中から脂汗を書いたノア=ルシーダは決心する。 ホルムズを何とかして救おうと。ノア=ルシーダは激痛を感じながらも、 カル=キュローの洗脳に打ち勝って、正気を取り戻していた。 彼は、極限まで知能を高めた生命体開発計画の試作生命体キールズ号に相談することにした。 キールズ号は”不死の薬“をホルムズに飲ませることを提案する。 しかし、ノア=ルシーダは彼の同僚にホルムズを逃そうとしていることを知られ、 命を狙われることになる。彼はホルムズに不死の薬を飲ませた直後に同僚に見つかってしまう。 「お前も不良品か。カル様のために働くことを忘れたのか!科学の発展のために 貢献する気はないのか!」同僚の銃弾がノア=ルシーダの腕を貫く。 「愛してしまったから、不良品か・・ははは。・・確かに不良品かもしれない。 お前から見ればな。・・だが、不良品で何が悪い!不良品だって生き物だ!不良品だって、 生きているんだ!生きているものに不良品など、不良な者などいやしない!」
「君は、カル様が築こうとされている幸せな社会を乱すかもしれない危険分子だ。」
さらなる銃弾がノア=ルシーダの胸を貫通する。血反吐を吐きながら、ノア=ルシーダは ホルムズを抱きしめた。
「お父さんはいっぱい悪いことをしすぎた。罪を償わなければならないんだ。 多くのお前の兄弟たちのところに行かなければならないんだ。本当はお前をもっともっと 抱きしめてやりたかったが・・。でも、お父さんはいつもお前を愛している。 いつもお前のそばにいるよ・・・。行け、ホルムズ!!!世界は広い!こんな研究所の 檻の中だけではないんだ。お前はこの研究所で苦しんでばかりいたが、世界には 苦しみばかりではない!楽しいことが山ほどあるんだ!お父さんの分まで、生きてくれ! そして、誰もお父さんのような罪を犯さないようにしておくれ・・。お前はお前自身の正義 を貫いて、どんな人間よりも強く高く自由に生きるんだ。」
同僚が侮蔑する。「個々の正義などを個々に持ち出すから争いが絶えないんだよ。 秩序がなくなるんだよ。」
ノア=ルシーダがホルムズを掲げ上げる。「カル=キュローの“秩序ある社会”など、ぶち壊せ!!」
同僚の銃弾の嵐がノア=ルシーダの脳を吹き飛ばし、ホルムズもばらばらになる。 同僚はにやりとしながら、つぶやく。「ぶち壊されるべきなのは“不良品”のほうだ。」
処理をしようと近づいた同僚は、驚嘆に目を見開いた。ホルムズのばらばらになった体が、 むくむくと動き出し、転がって、一つにくっついていく。やがて、肉隗たちはくっついて一つになり、 蠢いて変形していく。そして、元通りの姿に戻った。赤ん坊は周りを探し、 ノア=ルシーダの頭の破片に気づくと、そこまではいはいをしていく。
「パパ・・」無邪気に抱きついたホルムズはノア=ルシーダの頭が動かないのを不思議そうに見ている。 ノア=ルシーダが死んだのがわからないようだ。怯えながら、同僚がホルムズを射撃するが、 今度はホルムズに銃弾が当たっても、皮膚がくぼむだけで、無邪気に笑っている。 同僚は叫ぶ「バ・・化け物!」そこへ、騒ぎのどさくさに紛れて脱出したキールズが現れる。 「どっちが化け物だ?お前の方が化け物だろうが。自分の子供を何百人も殺しやがって。 まぁ、カルの洗脳のせいだからお前は悪くはないけどな。」同僚はキールズを射撃するが、 キールズはすかさずホルムズの後ろに隠れる。
「ホルムズ・・向こうのおじさん抱っこしてくれるってさ!抱っこしてもらえるぞ!抱きつけ!」 ホルムズは同僚にだっこしてもらおうと飛び上がるが、彼の力は尋常ではなかった。 彼の細胞は射撃による破壊のため、弾丸よりも硬くなり、 銃弾の速度よりも速く動けるように成長していたのだ。 飛び掛られた同僚は壁に頭を大きく打ちつけ、脳震盪を起こして気絶してしまった。 笑った後で不思議そうにしているホルムズに、キールズが言う。 「ホルムズ,お外に行こう。お外は楽しいぞ!」
ホルムズは外に出ようとして、鋼鉄のドアに頭を打ちつけ、泣き出す。 キールズが頭をさすってやり、面白い顔をすると、ホルムズは無邪気に笑う。 次にドアに頭を打ち付けるとドアがへこむ。 彼の頭の細胞が鋼鉄を突き破れるほどに進化したのだ。 立ち上がって歩くこともできないのに、はいはいで鋼鉄の壁を突き破るホルムズ。
ホルムズが無邪気に笑いながら、研究所員たちの銃撃をものともせず、 研究所を破壊しながら外へと重機関車のようにはいはいで進んでいく。 キールズも変形して小さくなり、ホルムズの首のところにへばりついて研究所を脱出する。
「なんちゅう赤ん坊だ。これは末が楽しみだ。」キールズが痛快に笑う。 「ひゃあっほー!!行くぞ!ホルムズ!世界が待っている!世界は俺たちの遊び場だ!」


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